ピタゴラスの定理から直角三角形の底辺 $x, y$ と斜辺 $z$ の長さには \[ x^2+y^2=z^2 \] という関係がある。それで例えば底辺の長さが3, 4である直角三角形の斜辺の長さは5であり、 底辺の長さが5, 12である直角三角形の斜辺の長さは13である。 また、逆に上記の関係が成り立つとき、各辺の長さが $x, y, z$ である 三角形は直角三角形であり、 $x, y$ が底辺の長さで $z$ が斜辺の長さである。 上記の直角三角形の例は、いずれも各辺が全て整数だが、そのような直角三角形はもちろん他にもある。 例えば各辺の長さが 3, 4, 5 の直角三角形から、直角三角形で各辺の長さの組が (6, 8, 10) とか (9, 12, 15) とか 一般に $(3k, 4k, 5k)$ であるものが 見つけられる。 もちろん、このような相似関係にあるものを別としても、各辺の長さが全て整数である直角三角形は たくさんあることがわかる。 (7, 24, 25) とか (8, 15, 17) などである。 ピタゴラスの定理から、各辺の長さが全て整数である直角三角形を見つけることは不定方程式 \[ x^2+y^2=z^2 \] の自然数解をすべて求めることと同じである。この自然数解をすべて求める公式は \[ x=d(m^2-n^2), y=2dmn, z=d(m^2+n^2) \] あるいは \[ x=2dmn, y=d(m^2-n^2), z=d(m^2+n^2) \] で与えられる。
まず $\gcd(x, y, z)=1$ の場合から考える。 一般の場合、つまり $d=\gcd(x, y, z) > 1$ の場合 $x=dx_0, y=dy_0, z=dz_0$ とおくと $\gcd(x_0, y_0, z_0)=1$ かつ $x_0^2+y_0^2=z_0^2$ であるから \[ x_0=m^2-n^2, y_0=2mn, z_0=m^2+n^2 \] または \[ x_0=2mn, y_0=m^2-n^2, z_0=m^2+n^2 \] である。これを元の変数を使って書き直すと \[ x=d(m^2-n^2), y=2dmn, z=d(m^2+n^2) \] または \[ x=2dmn, y=d(m^2-n^2), z=d(m^2+n^2) \] となり、冒頭の形の解を得る。 上記の公式は古くから知られており、ユークリッドの「原論」第10巻命題29の補題1にまで遡る。ただしユークリッドの公式は \[ z+y=kn^2, z-y=km^2, x^2=z^2-y^2=(kmn)^2 \] の形をとる。ただし $z+y, z-y$ は共に偶数か、共に奇数であるものとする。これは \[ x=kmn, y=\frac{k}{2}(m^2-n^2), z=\frac{k}{2}(m^2+n^2) \] に相当する。実際にはこれは上記の公式と同値である。ユークリッドは「原論」第10巻命題29の補題2で、この公式からすべての解が導き出されると主張しているが、 その証明は不完全だった。 ディオファントスは「算術」の第2巻問題8で与えられた平方数を2つの有理数の平方の和で表す問題について議論し、16について解 \[ 16=\left(\frac{12}{5}\right)^2+\left(\frac{16}{5}\right)^2 \] を求めている。一般の場合には、ピタゴラスの方程式の有理数解を求めることに相当し、ディオファントスの方法から有理数解 \[ x=\frac{2mz}{m^2+1}, y= mx-z=\frac{m^2-1}{m^2+1}z \] が得られる。これは整数解 \[ x=2kmn, y=k(m^2-n^2), z=k(m^2+n^2) \] に対応するので、上記の公式と同値である。 |