(in English)

フェルマー予想

フェルマーは「算術」の写本の、上記の問題のページの余白に

立方数は2つの立方数に分割することはできず、4乗数は2つの4乗数に分割することはできず、 それより高次のいかなる次数の累乗数も、2つの、同じ次数の累乗数に分割することはできない。私はこのことの真に驚くべき証明を発見したが、 この余白はそれを記すには狭すぎる
と記した。すなわち \[ X^n+Y^n=Z^n, n\geq 3, XYZ\neq 0 \] に解がないことを証明したと主張したのである。しかし、フェルマーによる証明は現在のところ存在が確認されていない。

フェルマーは「算術」の写本の別の箇所に「辺の長さが全て有理数で面積が1の直角三角形は存在しない、言い換えれば 辺の長さがすべて整数で、かつ面積が平方数となる直角三角形は存在しない」ことの証明を記している。 これは上記の解の公式から不定方程式 \[ mn(m^2-n^2)=l^2 \] の自然数解 $m, n, l$ を発見する問題と考えることができる。ここで $k=\gcd(m, n) > 1$ とすると $\gcd(m_0, n_0)= 1$ かつ $m_0=m/k, n_0=n/k, z_0=z/k^2$ もこの方程式の自然数解となる。したがって $\gcd(m, n)=1$ の場合を考えることに帰着する。

このとき $\gcd(m, m^2-n^2)=\gcd(n, m^2-n^2)= 1$ となる。 というのは、例えばある素数 $p$ が $m, m^2-n^2$ を共に割り切るならば $p$ は $m^2-(m^2- n^2)=n^2$ を、ということは $n$ をも割り切ってしまい、 $\gcd(m, n)= 1$ の場合に限定したことに反するからである。

そうなると、 $m, n, m^2-n^2$ はすべて平方数である。したがって \[ m=X^2, n=Y^2, m^2-n^2= Z^2 \] とおくと $X, Y, Z$ は不定方程式 \begin{equation} X^4-Y^4=Z^2 \end{equation} の自然数解となる。この方程式に非自明な自然数解が存在しなければ、 先のフェルマーの方程式は $n=4$ のとき、確かに非自明な自然数解は存在しない。つまり フェルマーは $n=4$ のときには自身の「定理」を証明していたことになる。 なお、辺の長さが全て整数の直角三角形の面積は平方数とはなり得ないことは それ以前にフィボナッチが主張していたが、その証明は完全ではなかった。

フェルマーは数多くの定理を証明したと主張したが、その証明の殆どは現在では存在が確認できない。 しかし、この直角三角形の定理は存在が確認できる非常に数少ないものの一つである。

一方、後年フェルマーの主張した定理や予想を研究したオイラーは \begin{equation} X^4+Y^4=Z^2 \end{equation} には非自明な自然数解は存在しないことを証明した。これはやはりフェルマーの方程式の $n=4$ の場合を含んでいる。

フェルマーの主張した、他の定理や予想はすべて後年に真偽が決着したが、フェルマー予想は最後まで 真偽が判明しないまま残ったため、フェルマーの最終定理と呼ばれるに至った。

オイラーは、最も次数の低い場合、つまり \[ X^3+Y^3=Z^3 \] に非自明な解が存在しないことを証明したと主張したが、その証明には不完全な点があった。オイラーは 複素数の範囲で因数分解したが、オイラーの考えた範囲では素因数分解の一意性が成り立たないのである。 しかし、範囲を変えることで素因数分解の一意性が成り立つようにでき、結局 $n=3$ のときには 整数解が存在しないことがわかる。

なお、 $n=3, 4$ の場合に非自明な解が存在しないことから、 $n$ が $3, 4$ の倍数であるときにも 非自明な解が存在しないことがわかる。例えば \[ X^{3m}+Y^{3m}=Z^{3m} \] ならば、 \[ (X^m)^3+(Y^m)^3=(Z^m)^3 \] となるが、これには非自明な解が存在しないのだから、 $n=3m$ のときにも解は存在しないのである。

フェルマー予想は最終的に1995年に解決されるが、その後の研究についての通史的な解説は他に譲るとして、 ここでは、実際に $n=4$ のときに非自明な解が存在しないことを示してみよう。実はこの場合は、 ピタゴラス方程式の解の公式を用いて、非自明な解が存在しないことを 比較的簡単に証明できるのである。


$X^4-Y^4=Z^2$ は非自明な解を持たない

まず、前に書いたように、フェルマーが非自明な解が存在しないことを証明した方程式 (1) について考える。この方程式が正の整数解を持つと仮定し、その中で $x$ が最小となるものを $(x, y, z)$ とおく。

$x, y$ が共に $d$ で割り切れるとき $x^4-y^4$ は $d^4$ で割り切れるので $z$ は $d^2$ で割り切れる。 ここで $d > 1$ ならば $(X, Y, Z)=(x/d, y/d, z/d^2)$ が上記の方程式の正の整数解となるが、これは $(x, y, z)$ が最小の正の整数解であることに矛盾するから $d=1$ でなければならない。つまり $\gcd(x, y)=1$ である。

よって $x^2, y^2$ も互いに素であるから、ピタゴラス方程式の解の公式より \begin{equation} x^2=m^2+n^2, y^2=m^2-n^2, z=2mn \end{equation} または \begin{equation} x^2=m^2+n^2, y^2=2mn, z=m^2-n^2 \end{equation} となる。ただし $m > n$ は互いに素な、正の整数である。

(3) の場合、 \[m^4-n^4=(xy)^2\] となるので $(X, Y, Z)=(m, n, xy)$ も (1) の解となるが、 $m \lt x$ だから $X=x$ が (1) を満たす最小の正の $X$ であることに矛盾してしまう。よって (3) はありえない。

(4) の場合 $m, n$ は互いに素であるから $x^2=m^2+n^2$ に ピタゴラス方程式の解の公式を用いて \[ m=r^2-s^2, n=2rs \] または \[ m=2rs, n=r^2-s^2 \] を得る。ただし $r > s$ はやはり互いに素な、正の整数である。いずれの場合も \[ y^2=4rs(r^2-s^2) \] が成り立つ。ここで $r, s, r^2-s^2$ はどの2つも互いに素でなければならない。というのは、 たとえば $r, r^2-s^2$ が共にある素数 $p$ で割り切れるならば $s^2=r^2-(r^2-s^2)$ も $p$ で割り切れるから $r, s$ が共に $p$ で割り切れなければならないが、 $r, s$ は互いに素なので そのようなことは起こり得ないからである。よって3つの数 \[ r, s, r^2-s^2 \] は共に平方数である。そこで $r=t^2, s=u^2, r^2-s^2=v^2$ とおくと \[ v^2=r^2-s^2=t^4-u^4 \] より $(X, Y, Z)=(t, u, v)$ も $t \lt r \lt y \lt x$ より、やはり $x$ の最小性に矛盾する。したがって (4) もありえない。

これらのことから (1) は非自明な解を持たないことが分かるのである。


$X^4+Y^4=Z^2$ は非自明な解を持たない

オイラーは (2) も非自明な解を持たないことを示した。こちらの証明はさらに簡単である。 (2) の正の整数解で $Z$ が最小となるものを $(x, y, z)$ とおく。

やはり $x^2, y^2$ は互いに素であるから、ピタゴラス方程式の解の公式より \begin{equation} x^2=m^2+n^2, y^2=2mn, z=m^2+n^2 \end{equation} または \begin{equation} x^2=2mn, y^2=m^2-n^2, z=m^2+n^2 \end{equation} となる、互いに素な正の整数 $m, n$ がとれる。

いずれの場合も $m^2-n^2, 2mn$ は共に平方数であり、 かつ互いに素である。したがって $m^2-n^2$ は奇数の平方数である。よってピタゴラス方程式の解の公式より \[ m=r^2+s^2, n=2rs \] となる、互いに素な正の整数 $r, s$ がとれる。ここで $2mn$ が平方数であることを思い出すと \[ rs(r^2+s^2)=mn/2 \] も平方数である。

ところで $r, s, r^2+s^2$ はどの2つも互いに素でなければならない。というのは、 たとえば $r$ と $r^2+s^2$ が共に素数 $p$ で割り切れたとすると $s^2=(r^2+s^2)-r^2$ も $p$ で割り切れ、よって $s$ も $p$ で割り切れなければならないが、 $r, s$ は互いに素であることに 矛盾してしまうからである。

よって $r, s, r^2+s^2$ はいずれも平方数である。そこで $r=t^2, s=u^2, r^2+s^2=v^2$ とおくと \[ t^4+u^4=r^2+s^2=v^2 \] となる。よって $(X, Y, Z)=(t, u, v)$ も (2) の正の整数解である。しかし、これは $v\lt v^2=r^2+s^2=m\lt z$ より $z$ の最小性に反する。

こうして (2) も正の整数解を持たないことが示されたのである。

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